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親が認知症と診断されてしまっても家族信託が可能なケース

1.家族信託って認知症でもできる?
家族信託とは、家族に財産の管理・運用を任せる信託契約のことです。例えば「親が将来的に認知症になった後も、親の財産を子どもが管理できるようにしたい」というケースでは、次のような信託契約が考えられます。

①委託者(親):認知症になった後も子が自身の財産を管理・運用できるように信託する
②受託者(子):親の財産を実際に管理・運用する権限を得て行う人
③受益者(親):財産の運用によって発生した利益を受け取る人。契約次第で誰でも可能

このような契約によって、親が認知症になった後でも子どもが親の財産を管理・運用し、必要なときに投資に使ったり利益を得たりすることが可能になります。

しかし、家族信託はいつでも結べるわけではありません。タイミングを逃すと契約自体が不可能になることもあるため注意が必要です。

1-1.【前提】認知症発症後は家族信託できない
前提として、すでに親が認知症となり判断能力(意思能力)が失われている場合は家族信託契約を結べません。
家族信託契約を結ぶには「契約当事者が契約内容を自分の意思で判断できる状態であること」が重要です。認知症になってしまうと、契約内容自体が自分に利益があるか不利益であるかの判断もつきません。そのように判断能力がなくなってしまうと、契約が無効になってしまうのです。
これは2020年4月1日に施行された改正民法第3条の2に基づいており、「判断能力のない人が行う法律行為は無効」とされています。

第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、そ     の法律行為は、無効とする。(引用:e-Gov|民法)

認知症対策で家族信託を利用したい場合は、必ず親の判断能力があるうちに詳細な話し合いと契約締結を済ませる必要があります。

1-2.初期・軽度の認知症なら家族信託できる
「判断能力の有無で決まるなら、初期や軽度の認知症だと家族信託できるのでは?」という疑問ですが、結論からいえば親の状態次第では可能です。これは医師から正式に認知症の診断を受けていても変わりません。
契約の判断基準を決めるのは医師ではなく公証人です。家族信託の契約書を公正証書とする際に、公証役場にて公証人が親の状態や契約内容をチェックします。そこで「親が契約内容を問題なく理解している」と判断されれば、認知症の親とでも家族信託契約の締結が可能です。

とはいえ、少しでも認知症が進行した状態での話し合いや契約締結は、健康なときに進めるよりもトラブルが増えるリスクがあるので、注意して進める必要があります。

軽度認知障害(MCI)の具体的症状
例えば、軽度認知傷害(MCI)の中で影響が出そうな症状は次のとおりです。
☑何度も繰り返し同じ話をする、または質問をする
☑銀行口座の暗証番号等の物事やさきほどまで話していた内容を忘れる
☑お金の計算やスケジュール管理、そのほかの効率的な段取りができない
☑親が以前より疲れやすくなる など
「言った言わない」のトラブルや体力的な問題、話し合いの長期化などが予想されます。また、軽度認知傷害と診断された後は、年間で10~30%の人が本格的な認知症に進行するといわれています。もし契約内容を詰めている最中に突然発症すると、その後の契約が滞るかもしれません。

2.家族信託ができる認知症の判定基準
それでは、どのような状態であれば「正常な判断能力をもっている」と言えるのでしょうか?
例えば「要介護度」と判断能力は直接にはリンクしません。身体的な介護が必要だったとしても、契約内容をきちんと理解できるのであれば、契約を結ぶことができるからです。同じように、「施設入所中」「入院中」という事実だけで「判断能力」があるかどうかは判断できません。
委託者本人が信託契約時に求められる理解力、判断力というのは、大まかには下記の通りです。
☑氏名/生年月日/住所が言える
☑契約書に署名ができる(身体的に難しい場合は除く)
☑契約内容を理解している【①どの財産を、②誰に管理を任せるのか、③相続後は誰に遺したいのか】
公正証書で契約書を作成する場合、契約能力があるかは最終的には「公証人」が判断します。公証人は、契約者が上記の理解力や判断力を持っているかどうかを確認し、「正常な判断能力」があると判断されれば、契約を進めることができます。

2-1.氏名/生年月日/住所が言える
公証人は委託者の身元を確認するために、印鑑証明や運転免許証などの公的な身分証明書に記載されている情報を本人に確認します。その際に住所、氏名、生年月日が答えられない状況であると、本人の判断能力について疑問を持たざるを得ません。

2-2.信託契約書に署名ができる
委託者本人の意思で、信託契約書に署名できるかどうかも判断材料の一つです。身体的に難しい場合には、家族などの介助者のサポートを借りて署名することもケースによっては認められます。

2-3.契約内容を理解している
委託者が契約内容を理解しているかは、以下3つの要素で判断されます。これらを明確に理解し、意志を表明できる場合、認知症の診断歴があっても家族信託契約を結ぶことが可能です。
☑①どの財産を信託するのか
この質問には、信託する資産の内容、具体的な不動産の種類(例えば、居住用の自宅や賃貸物件、土地の概要)、金融資産などの情報が含まれます。不動産の場合、正確な地番や家屋番号をこたえられる必要はありませんが、自宅、アパートなどの種類や、物件の大まかな位置や特徴なをを回答できる必要があります。

☑②誰に託すのか
財産を託したい人物(受託者)という部分は必ず聞かれる質問です。具体例として「長男を受託者とする」や、「長男が先に死亡した場合は次男に託す」などと回答します。万が一に備えて、受託者が先に亡くなった場合の後任の受託者も含めて回答できるようにしておきましょう。

☑③相続後は誰に遺したいのか
「死後に財産を継承させたい者」の具体的な指名もチェックされます。信託契約の内容に基づいて、「全て長男」「金融資産は長男と次男に均等に分配し、自宅は配偶者に継承させる」といった具体的な分配希望を回答します。

ただし、実際には、家族構成や相続関係、契約内容の複雑さを踏まえ、委託者の意思能力を慎重に評価する必要があります。契約内容が複雑であればあるほど、高いレベルの意思能力が委託者に求められるため、公証人が契約を進めない場合があります。

3. 初期・軽度の認知症でも家族信託が進めやすいケースとは?
「初期・軽度の認知症で若干判断能力が怪しい親の財産を家族信託できるのか?」というご質問をよくいただきます。公証人の判断基準や認知症の状況によりますが、ご家族の状況や信託内容によっては進めやすいケースもあります。

3-1.相続人が子どものみのケース
公証人は、家族信託の契約において法的な安全性と信頼性を担保しています。特に、当事者の意思確認は将来の紛争を未然に防ぐために非常に重要です。信託契約の内容に不満を持つ親族がいる場合、意思能力の欠如が争点にされることが多いからです。そのため、相続人が大勢いたり、家族信託に積極的でないご家族がいる場合には、公証人も慎重にならざるを得ません。
しかし、相続人が子ども一人の場合には状況が異なります。一人っ子の家族信託では、兄弟がいない分、介護や財産管理などの分担をすることもできませんが、信託財産を誰に残したいかなどの意向が明確です。争う相手や契約内容について指摘する人がいないため、公証人も多少の許容を示してくれることがあります。

3-2.家族全員の同意と協力が得られているケース
家族全員の同意と協力が得られている場合、認知症であっても家族信託はスムーズに進む可能性が高まります。ここで言う「家族全員」とは、親族全員が好ましいですが、特に委託者の財産を相続する可能性がある人全員の同意がある場合を指します。
家族信託は、基本的にご家族の中で委託者が信頼できる代表者1名(=受託者)が財産を預かり、管理や運用を行います。相続人同士の関係性が希薄で、協力的でない場合でも、家族信託を行うことはできます。しかし、後々、管理体制や運用について文句を言ってくる可能性があると、公証人は手続きを進めるのに慎重になります。
ご家族全員が代表者に任せることに同意し、家族信託を実際に締結した後も、その人だけに任せるのではなくご家族が相談し合って管理・運用を続ける場合、トラブルになるリスクは極めて低いと判断されます。そのため、判断能力が怪しいと思われる場合でも、公証人が契約を進めてくれる可能性が高まります。

4.初期・軽度の認知症での家族信託手続きの注意点
初期・軽度の認知症と疑われる親の財産を家族信託する際には、いくつかの重要な注意点があります。これらの注意点を理解し、適切に対処することで、家族信託の手続きをスムーズに進めることができます。

4-1.ご家族全員の同意は必須
法律上、家族信託は財産を預ける委託者と預かる受託者の間で成立します。そのため、理論上は他の家族の同意がなくても契約は可能です。しかし、実際には家族全員の同意を得て進めることが推奨されます。
理由の一つとして、家族信託は家族全員が納得していないと、後々トラブルになる可能性が高いからです。例えば、長男が親の財産を管理している場合、他の兄弟がその管理方法に不満を持つことがあります。たとえ長男が正しく管理していたとしても、兄弟間での情報共有が不十分だと、誤解や疑念が生じやすくなります。このような状況を防ぐためにも、家族全員で家族信託の内容を話し合い、全員が納得した上で進めることが重要です。

4‐2.信託契約の公正証書化
信託契約書は、公正証書で作成するほか、私文書でも作成することができます。しかし、特に認知症の家族信託手続きを進める場合、公正証書化することが非常に有効です。公正証書は、公証人が関与することで法的な効力が強まり、後々の紛争を未然に防ぐ効果があります。
公証人は契約内容を確認し、契約者の意思確認も行います。認知症である契約者が自分の意思で契約を結んでいることを公証人が証明することで、契約の信頼性が高まります。公正証書にすることで、契約の正当性を証明し、財産所有者の同意を得ずに契約したという疑念を避けることができるのです。

一方、私文書として作成した場合、公証人の関与がないため、契約者の意思に基づくことを証明するのが難しくなります。第三者から「受託者から強制されたのでは?」と疑われる可能性があり、書類の有効性について訴訟に発展するリスクもあります。そのため、認知症の親の家族信託をするのであれば、公正証書化は必須です。

4‐3.判断能力があった客観的な資料を残す
信託契約を結ぶ際には、契約者の判断能力があったことを証明するために、客観的な資料を残すことが重要です。医師の診断書や面談記録などが有効です。また、公正証書にするのもこれが理由です。
これらの資料は、後日、契約者の意思能力について疑問が生じた場合の重要な証拠となります。特に、軽度の認知症を患っている親が契約者の場合、これらの資料は信託契約の有効性を裏付けるために不可欠です。契約時には、十分な説明と同意を得た上で、必要な資料をしっかりと保存しましょう。

4‐4.シンプルで分かりやすい信託内容にする
信託契約の内容はシンプルで分かりやすいものにすることが得策です。特に、認知症の親が関与する場合、契約内容が明確であるほうが親も理解しやすいものだと、公証人としても契約書を理解しているかどうかを確認する上で難しい質問を避けることができます。複雑な契約内容は、後々のトラブルの原因となる可能性が高まるため、シンプルな内容が推奨されます。
具体的には、信託の目的、受託者の役割、信託財産の管理方法、受益者の権利などを明確に記載します。これにより、関係者全員が理解しやすくなり、スムーズな運用が可能になります。明確な記載は、公証人が契約内容を確認する際にも役立ち、契約の有効性を確保するために重要です。

4‐5.スピードと精度を兼ね備えた専門家に依頼
認知症であっても家族信託ができる場合がありますが、最も重要なのは、契約を結ぶ時点で委託者の意思能力がはっきりしていることです。契約が遅れると、判断能力が低下し、契約ができなくなるリスクが高まります。そのため、親の認知症を心配する場合は、スピード感を持って契約を進め、手続きや各機関との調整を的確に行える専門家に依頼することが重要です。

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